早打肩は、”はやうちかた”と読みます。
聞きなれない言葉ですが、古くは心筋梗塞や狭心症を指しました。肩や胸に起こる強い持続痛が大きな特徴なので、このような名がついたのかなと思います。無痛性の狭心症もあるので適当とはいえませんが。
動脈硬化の危険因子は加齢、肥満、喫煙、運動不足、高血圧、糖尿病等ですが、これらの高リスク群には瘀血が多いようです。足背や後脛骨動脉の拍動、下肢の静脈瘤や細絡の有無といった所見をわたしは参考にしています。
早打肩には青筋という別名があります。我々は”あおすじ”と読むのですが、明代の龔廷賢親子が使い始めた言葉らしく、”悪血”が”下から上に”昇って心臓や脳に悪影響を及ぼすという考えです。
上の病を、下にある悪血が問題だとした視点が面白いです。
実は、かなり古くからある考え方です。
桃核承気湯などは小腹急結があり、瘀血が上昇して上の方に不調を起こさせるわけですから、青筋は含まれます。
急性心痛は、足の少陰の絡を刺絡しろと言っている箇所が『素問』にあります。足の少陰腎経のどこかというのであれば、胸~腹部の可能性もありますが、足から取れという解釈が普通です。確かに足関節まわりは細絡が出やすい所です。
「上の不調を下で取れ」は様々な例があります。
こういうことが2000年前にはすでに言われていたことに驚嘆します。
併せて考えると、下から上る悪血による心痛であれば、下からその悪血を去ればよいということになります。ただし、「心痛だから足から刺絡」みたいな安易な治療は慎むべきで、病能をよく見極めねばなりません。
どういうタイミングなのか、どうやるかいうことは『素問』には書いてありません。”軸”がないまま古典を読んでも訳が分からないので、挫折するというのはよくあるパターンです。ついでながら、その辺りの空間的・段階的な視点で病のメカニズムを示して下さった、横田観風先生の教えは本当にありがたく、また臨床的だったと思います。
また、一応書いておきますがまちがっても後脛骨動脈から刺絡してはいけません。静脈からもとりません。
*「邪、足の少陰の絡に客すれば、人をして卒かに心痛、暴張、胸脇支満せしむ。積無き者は、然骨の前を刺し、血を出だせ」『素問』繆刺論
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