現代の「髄海不足」— コロナ後遺症とビタミンD、そして腎精の関係

今日は、国立大学法人・岡山大学が発表した「コロナ後遺症診療におけるビタミンD測定の意義」という興味深いテーマを、東洋医学のレンズで読み解いてみたいと思います。

コロナ後遺症で悩む方々が訴える、抜けない疲労感や「ブレインフォグ(脳の霧)」。これらを東洋医学の視点から見つめ直すと、ある一つのキーワードが鮮明に見えてきました。それが「髄海不足(ずいかいふそく)」です。

1. 「腎」は骨を主り、髄を生じ、脳に通じる

東洋医学には、数千年前から伝わる身体の設計図があります。

腎主骨、骨生髄、髄通於脳
(腎は骨を司り、骨は髄を生み、髄は脳へと通じている)

私たちの生命力の源である「腎(じん)」が蓄えているエネルギーを「精(せい)」と呼びます。この「精」が形を変えたものが、骨の中に満ちる「髄(ずい)」であり、それが背骨(脊髄)を伝って昇り、集まった場所が「脳」であるとされています。つまり、脳は東洋医学で「髄の海」と呼ばれます。

岡山大学の研究が指摘する「ビタミンD不足とコロナ後遺症」の相関は、まさにこの「腎精の消耗による髄の枯渇」という図式と重なって見えます。

2. ビタミンDと「精」の共通点

ビタミンDは、骨の代謝を助け、免疫を整え、神経系を保護する役割を持っています。特筆すべきは、ビタミンDが「脂溶性(油に溶ける)」であるという点です。

実は、東洋医学でいう「精」や「髄」も、身体を潤し、神経系を滑らかに働かせる「脂質に近い濃密な栄養物質」と呼べる性質を持っています。

コロナという激しい炎症(熱邪)によって体内の潤いや「腎精」が焼き尽くされると、脳脊髄液の循環や質にも影響が及び、結果として脳が栄養不足=「髄海不足」の状態に陥ります。

「脳脊髄液減少症」とコロナ後遺症の症状が酷似している(頭重感、認知機能低下、倦怠感など)と言われるのは、どちらもこの「脳を浸す潤い(髄)のバランス」が崩れているからだと推測できます。

3. 鍼灸師が考える「腎」と「髄」の養生法

ビタミンD不足を補うという現代医学的アプローチ(食事、サプリ、日光浴)は、東洋医学の「補腎(ほじん)」そのものです。

後遺症で起き上がれない様なダメージを腎精が受けてしまった場合、問題は余熱や痰湿が残っている点にあります。傷を負った腎精への一助にはなるかもしれません。

* 日光浴と督脈(とくみゃく):

日光浴はビタミンDを合成しますが、東洋医学では背骨を通る「督脈」という経絡に、太陽の「陽気」をチャージする行為ことで髄の循環を促し、脳の霧を晴らす助けとなります。ただし、適量があり、やりすぎには注意がいります。

* 「黒」と「脂」の食事

鮭やイワシなどの魚介類(良質な脂)、キノコ類、そして黒豆や黒胡麻といった「黒い食材」は、伝統的に腎を補うとされています。

* ツボへの刺激

「教科書的には」という話ですが、足にある「太谿(たいけい)」や腰の「腎兪(じんゆ)」は、腎精を鼓舞し、脳への栄養供給をサポートする重要なポイントです。


おわりに

統計的なデータはまだ発展途上かもしれませんが、臨床の現場で見えるのは、私たちの身体が「骨・髄・脳」という一本のラインでつながっているという揺るぎない事実です。

コロナ後遺症という新しい悩みに直面したとき、現代医学の最新の知見を、古来から続く中国医学の知恵で補完していく。そんな調和のとれたアプローチが実現することで、これまでの常識や限界を超える成果を出すことができないだろうか。

著者注

この記事は、特定の治療結果を保証するものではありません。体調に不安がある場合は、医療機関での受診を優先し、日々のセルフケアの一つとして東洋医学の考え方を取り入れてみてください。