神戸源蔵の鑱鍼

神戸源蔵(カンベ ゲンゾウ)鍼製作所が閉業されたと知りました。

神戸さんは浅草橋駅の近くにあった、江戸時代から続く鍼製作所です。

私の手元には6世に作って頂いた、わずかな毫鍼(ゴウシン)と鑱鍼(ザンシン)が残っています。どれも古代九鍼のひとつです。皆さんがご存知のいわゆる”鍼”は、正式には毫鍼といいます。


この鑱鍼には忘れられない思い出があります。

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「国旗が口から出てくる手品があるでしょ? あれみたいにどんどん口からタンが出てきたのよ・・・」

それはまだ、お勤め鍼灸師時代のことです。


患者さん宅に訪れると、前回つけていた人工呼吸器がなくなっていました。

先週初めて訪れたときの様子では、人工呼吸器をつけていました。それでも息苦しいものらしく、ゼェーゼェーいいながら、息も切れ切れにお話されたのを覚えています。


それがなぜか取れていました。

そして普通に座って息しています。お話も普通にできています。


訳を聞いてみると、前回私が訪れた後、タンがどんどん出るようになりそれが3日ほど続いたそうです。

そのタンは手で引っ張っても切れないくらい硬く、引っ張るほど、どんどん出てくるという、、、なんとも世にも奇妙な物語でした。まるで万国旗を口から出す手品のようだったという話です。

結局3日間、いつまでもずっと出続ける有り様でキリがない。それで最後はハサミで切断して終わりにしたそうです。


「ホンマかいな・・・」と、我ながら改めて疑わしくなります。

「UFO見ました」くらいの次元の話に思えます。でも本当にあった話です。


微かな記憶では確か、COPD(慢性閉塞性肺疾患)です。

鍼はまだ怖いというので鑱鍼を見せて、「これなら怖くない」ということで肩甲骨を4.5回、軽くさすって終わりにした記憶があります。初回は治療というより、「こんな感じですよ、痛くも怖くもないでしょう」というパフォーマンスのつもりでした。

ところがです。

翌週、その患者のもとを訪れてみると、人工呼吸器が外れていたという訳です。


そんなことは普通あり得ません。これまでもCOPDの患者さんの治療をさせて頂いたことはあるので、私自身が良く分かっています。

再現してみろと言われてもできません。でも、そういうことがありました。


その時に使ったのが、神戸源蔵6世に作って頂いた鑱鍼でした。

この鑱鍼をみると、いつもその時のことを思い出します。


私が知る限り、古今東西を問わず、この現象を説明できる原理や理屈に遭遇したことはありません。そういう既存のものの外にあるかのようです。

この謎をいつか解明して、手の内としたいです。