私の血肉になったもの

東京九鍼研究会の石原克己先生がご逝去されたとネットで知りました。

わたしの記憶の中の石原先生はまだお若いままなのですが、思えば私も年を取り、あれからすでに15年も経っていました。とはいえ、訃報を聞くには早すぎるという気持ちです。

私は石原先生からも多大な影響を受けたと思っていますし、恩も感じています。ご冥福を祈らずにはおられません。

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東洋鍼灸専門学校時代、3年実技を担当して下さったのが石原先生でした。

伊藤瑞鳳先生が東洋鍼灸専門学校を退官されたため、瑞鳳先生から実技が習えぬことに当初は肩を落としていたのですが、「石原先生がいるから心配はないよ」と他の先生から慰められたのを覚えています。

博愛に満ちて暖かく、類のないほど博識。ヒーリングボイスとその手からは無限のエネルギーが放出されているかのようで、なんというか人類の最高到達点を感じさせる先生でした。ちなみに『鍼灸ジャーナル』第一号の巻頭ページが石原先生の手掌の写真です。あの手の感じは私の記憶に深く刻まれています。

たった一年だけでしたが毎回超濃厚な授業で、先生の持てるものを惜しみなく教えて下さっているのだろうと感じました。かなりご多忙だったはずですが、無償で課外授業までやってくださった。

あれから月日が経ちわたしも開業鍼灸師となりました。だからこそ思うのですが、そんなことはなかなかできることではありません。

あれは本当に有難いことだったのだ。今更ながらそう感じていた。そんな矢先でした。

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個人的には日本的な鍼灸や漢方、特に古方についてはすでに専門的な学びを始めていましたが、その対極にあるともいえそうな中医学的な見方については無知でしたので、そういった知識や賀普仁先生の三通法、刺絡や火鍼、挫刺鍼、水玉や推拿までレクチャーして頂けたことは財産になりました。この時教えて頂いた火鍼はいまもよく活用しています。

それ以外には東洋の心理療法といえる内観法、アンドリュー・ワイルやエドガー・ケイシー、神智学の話題も面白かった。ヒーリングや催眠療法も含め、様々な代替医療も紹介して頂きました。

この辺に関しては、スピリチュアルな話は鍼灸に無関係だからやめてくれという生徒もいた気がします。ただ、こういった講義を通じて広い視野を授けて下さったのだろうと私は思っています。


あの時期在籍して薫陶を受けた学生たちが、今もどこかでその一部なりを活用し、人の疾苦と向き合っているのでしょう。生前、先生が撒かれた種はそうして臨床の現場に生き、そして誰かを活かしているのだと思います。尊いことだと言わざるを得ません。


近年、偉大な先輩方がこの世を去るニュースを聞くたびに、私たちの世代がその後を担えるのか。建設的な上書きができるのか。不安を覚えることがあります。